日本は貧困率が高い?相対的貧困の現状とは

社会課題コラム

みなさんは「貧困」というとどのようなイメージがありますか?
多くの人は、途上国における貧困、いわゆる「絶対的貧困」のイメージが強いのではないでしょうか。

ですが表面的には見えていないだけで、先進国でも「相対的貧困」と呼ばれる貧困が存在します。
よく言われるのが、絶対的貧困を赤信号とすると相対的貧困は黄信号である、という例えです。

以前の記事では絶対的貧困に焦点を当てましたが、
今回は相対的貧困の背景や現状、解決策について見ていきましょう。

相対的貧困の定義とは?

「相対的貧困」とは、ある国や地域内で見た時に大多数よりも貧しい状態にあること。

OECD(経済協力開発機構)は全人口の家計所得中央値の半分を相対的貧困の貧困ラインとし、世帯の所得がこれに満たない状態を相対的貧困としています。

対して、「絶対的貧困」は生きていく上で必要な最低限の生活水準が満たされていない状態のことを指します。
詳しくはこちらの記事もご覧ください。
https://blog.ethicalcareerdesign.jp/poverty-issues/socialproblem/

日本の現状

2018年調査での日本の相対的貧困のラインは127万円。※
このラインに満たない相対的貧困率は15.7%、つまり約6人に1人が相対的貧困に該当しているという結果でした。

※等価可処分所得が127万円。等価可処分所得とは、
「世帯の可処分所得(収入から税金・社会 保険料等を除いたいわゆる手取り収入)を世帯人員の平方根で割って調整 した所得)の中央値の半分の額」のこと。

「用語の説明」厚生労働省

これだけでは多いのか少ないのか、いまいちピンときませんよね。
では、他国と比べてみるとどうなのでしょうか?

これは「OECD経済審査報告書(2017年)」による、2017年時点での先進国の相対的貧困率を表したグラフです。
見ていただけると分かるように、日本の相対的貧困率は先進国35カ国中7番目、G7(日米欧主要7カ国)の中では米国に次いで2番目の高さとなっています。

日本は為替レート(米ドル)換算での名目GDPが世界第三位であるということもあり、このような結果になったことに驚く人も多いのではないでしょうか。

相対的貧困の中でも特に問題視されているのが、

  • ひとり親世帯の貧困
  • 子どもの貧困
  • 高齢者の貧困

です。

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

(参考:日経ビジネス「G7で2番目に高い日本の相対的貧困率。そこで何が起きている?」)

ひとり親世帯の貧困

まず見ていただきたいのがこちらのデータ。

出典:シノドス「“ひとり親世帯”の貧困緩和策――OECD諸国との比較から特徴を捉える」
出典:シノドス「“ひとり親世帯”の貧困緩和策――OECD諸国との比較から特徴を捉える

日本のひとり親世帯の就業率の高さが明らかであると同時に、相対的貧困率も先進国の中で突出して高いですよね。
これらのデータから、日本のひとり親世帯の就業率は先進国の中でも高いのにも関わらず貧困率も高い、いわゆる「ワーキングプア」状態にあることが分かります。

ワーキングプアとは「正社員やフルタイムで働いているにも関わらず、生活保護の水準以下しか収入が得られない、就労者の社会層のこと」(引用元:HRプロ「ワーキングプアとは」)。
働く貧困層とも呼ばれます。

ひとり親世帯は親が1人で働き、家事育児まで担う必要があります。

特に問題視されているのがシングルマザーの貧困化です。
シングルマザーの支援団体「しんぐるまざあず・ふぉーらむ・関西」が2017年に行った調査では、働いているシングルマザーの約63.5%が就労収入年250万円未満のワーキングプアに該当することが明らかになりました。

働くシングルマザーのうち非正規採用の割合は4割以上であるのに対し、働くシングルファザーのうち非正規採用に該当するのは6%程度。
厚生労働省による平均年間就労収入はシングルファザーが398万円であるのに対してシングルマザーは200万円でした。

こういったことから、ひとり親世帯、特にシングルマザーの貧困が深刻化していることが窺えます。

(参考:リーガライフラボ「シングルマザーの貧困化|母子世帯の現状や受けられる支援について
産経新聞『働くシングルマザーの6割以上が就労年収250万円未満の「ワーキングプア」』)

子どもの貧困

18歳未満の子どもの貧困率が13.5%、つまり7人に1人が貧困状態にあるとされている日本。(「2019年国民生活基礎調査」による)
これは35人編成のクラスの中に、相対的貧困にあたる子どもが5人いることに値します。

衣食住がギリギリの生活を送っているということ以外で相対的貧困がもたらし得る問題として、

  • 家庭内環境の悪化
  • 家計を支えるための生活費だけでなく、大学への進学のための進学費や受験費等を高校に通いながらアルバイトで賄う
  • それでも金銭的に余裕がなければ大学の進学を諦める
  • 教育面での問題が所得格差、更に次世代の子どもの貧困につながる
  • コロナ禍においては休校によって給食がなくなり、食費が嵩んでしまった

といったことが挙げられます。


では、子どもの貧困を放置すると社会的にどのような影響が出てくるのでしょうか。

まず、将来の賃金水準が低くなります。
それに伴いマクロ全体での所得の減少と共に、税・社会保険料収入の減少が起こり、生活保護費などの社会保障給付の増加も起こり得ます。
財政収入の損失の額はなんと15兆9000億円、生活保護などの社会保障などで発生する政府の財政負担は約1兆1000億円
このように、子どもの貧困は決して他人事ではなく、放置することで社会的損失にもつながってしまうのです。

(参考:日本財団「子どもの貧困対策
日本財団「子どもの貧困の社会的損失推計 レポート
日経ビジネス「週1回で月謝7000円、貧困生徒を救う格安塾」)

高齢者の貧困

最後に高齢者の貧困について見ていきましょう。

少子高齢化の進行に伴い高齢者数が年々増えている日本ですが、65歳以降の高齢者の相対的貧困率も上昇しており、およそ5人に1人の割合で相対的貧困者が存在しています。
また、生活保護を受ける世帯の半分以上を占めています。

この背景の一つとしては、生活費全てを子どもからの金銭的援助を受けずに年金だけで賄わなければいけない単身高齢者の増加が挙げられます。

また、現役時代に非正規雇用であった人は厚生年金への加入率が低いため、受け取ることができる平均年金受給額が低くなります。非正規雇用の割合が高い女性は尚更、相対的貧困に陥りやすいということが容易に想像できるかと思います。

(参考:ELEMINIST「世界の「貧困率」の現状 6人に1人が相対的貧困に直面する日本の実情とは
シニアガイド『生活保護を受けている「高齢者世帯」は増え続けている』)

相対的貧困はどうすれば解決できる?

このように、一概に相対的貧困とはいっても世帯や年齢によって抱えている事情や背景、それに伴う影響は大きく異なってきます。

どうすれば解決できるのでしょうか?
この記事ではシングルマザーやワーキングプアの人、子ども、高齢者それぞれの相対的貧困者をサポートするために行われているものを紹介します。

日本でのマイクロファイナンス

実は、絶対的貧困の記事でも取り上げたマイクロファイナンス機関は日本にもあり、起業や就労に向けての準備資金を融資しています。

「グラミン銀行」をご存知の人は多いのではないでしょうか。実は途上国だけでなく世界各国で貧困削減の効果を上げており、その日本版の「グラミン日本」が存在します。

具体的には、低利・無担保での少額の融資により、シングルマザーやワーキングプアの人たちをはじめとした貧困・生活困窮の状態にある人の自立を支援している他、最近では他企業や団体と共に、デジタルスキルに特化した「シングルマザー就労支援プログラム」も実施されています。

(参考:グラミン日本「グラミン日本について
グラミン日本「ひとり親」)

子どもの貧困削減のためのサポート

子どもの貧困削減のために、費用を抑えながらオンラインで授業を受けられるサービスもあります。
場所・時間問わず、しかも安く受けられるのは助かりますよね。
ですが、授業を受けるための端末・環境が整っていなければそのサービスは使えません。

一部の団体によるプロジェクトでは、オンライン・オフラインでの支援に加えて生活物資の支給や保護者の相談支援が行われていますが、現状としてこういった活動を支えているのは寄付やボランティアの方々。
継続的に子どもの貧困削減のためのサポートを行うには、ビジネスによるアプローチも必要かもしれません。

昨年末、広告をクリックすることで誰もが生徒や学校を援助できるという広告サービス「ONGAESHI(おんがえし)」の実証実験が開始されました。(2022年1月31日で終了)

このサービスは、生徒や保護者が広告を閲覧することで広告出稿費の一部が「ONGAESHIコイン」というトークンとして発行され、コインの2/3は生徒本人に、1/3はプロジェクトに参加する地域の学校に寄付されるというものです。
貯まったコインは教育へのテクノロジー活用企業の提供する教材と交換でき、一般の社会人であればコインの一部は自分が選んだ地域の学校に寄付されます。

出典:『「データ利活用による教育DXの原資創出システム」実証事業 | 未来の教室 ~learning innovation~』

(参考:社会課題解決中MAP「コロナ禍で多大な影響を受けている子どもたちの今と未来を守りたい。
湯田陽子『DX時代の「ESG広告」の実証実験スタート。「広告を見るだけ」で寄付できる仕組みは教育格差を解消できるか』

年収1000万円稼ぐおばあちゃんがいる?!

高齢者の貧困削減のためのビジネスはまだあまりありませんが、高齢者も元気に働ける場所を提供することは貧困の削減につながると考えられます。

徳島県上勝町で行われている「葉っぱビジネス」をご存知でしょうか?
この地域には、料理に添えられる葉っぱ、いわゆるつまものを育てて販売することで、1,000万円もの年収を稼いでいるおばあちゃんがいるのです。

出典:事業構想オンライン『「葉っぱビジネス」の仕掛け人が語る、高齢者活用の重要性』

この葉っぱビジネスを支えているのがICT
パソコンやタブレットで受注情報や市場情報、栽培管理情報等が確認できるようになっています。
また、葉っぱは軽量であることから、女性や高齢者でも取り組みやすいというメリットがあります。

葉っぱビジネスは地方創生のモデルとしても有名になり、今では全国から視察者や農業体験者、移住希望者が訪れるようになりました。

(参考:株式会社いろどり「事業紹介」)

まとめ

絶対的貧困のように目に見えて困窮しているのが分かるわけではない相対的貧困。
日本では相対的貧困率が比較的高く、特にひとり親世帯・子ども・高齢者の貧困が問題視されています。

相対的貧困を削減するためのビジネスはまだあまりありません。
多くは寄付やボランティアによって賄われているのが現状です。

エシカル就活では貧困削減に取り組む企業も紹介しています。
絶対的貧困・相対的貧困問わず、解決に興味のある方は是非活用してくださいね。

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