第5回:竹内 映莉子さん「人・環境に配慮しながら、食料問題の解決へ」

社会課題解決に取り組む学生のストーリー

allesgoodのインターン生の由衣です。

今回は、現在イギリス・レディング大学で食料システムを学ぶ、映莉子さんにインタビューしてきました!

これまで、食を軸に様々な活動に携わってきた映莉子さん。

参加してきた活動の中でどのような疑問・想いが生まれ、新たな行動へと繋げてきたのでしょうか。「振り返ると、点と点が繋がります」と話す映莉子さんのストーリーを伺いました。

自己紹介

名前:竹内 映莉子(たけうち えりこ)
所属:レディング大学(イギリス)食糧安全保障と開発の修士課程

2017年にICUに入学。在学中には、フードロスや飢餓問題など、食を軸に様々な活動に参加。
卒業後、新型コロナウイルス感染拡大により大学院への進学を1年延期。その際には、大学在籍中に立ち上げしたフードロスの団体での活動を続けながら、SDGsのコンサルティング会社に勤務した。
現在は、イギリスのレディング大学の修士課程に在籍し、食料システムについて研究している。

多角的な視点から食料システムを研究する現在

ーー現在はイギリスの大学院に在籍されているんですよね。どのようなことを学んでいるのですか?

そうです!大学院では、「Food Security and Development」というコースに在籍しています。社会政策を通じた貧困や不平等への取り組みについての授業や、ジェンダーと開発、食糧安全保障と開発の授業を履修していて、多角的・多面的な視点で​​食料問題を捉える必要があるのだと感じる日々です!

ーーなぜ大学院への進学を決められたのですか?

大学在籍中に、食を軸に様々な活動に参加していたのですが、その中で不均衡な食料システムに疑問を覚えたことが大学院進学を決めたきっかけです。

大学ではTABLE FOR TWOのICU支部の活動に参加したり、フードロスに取り組む学生団体snaction(スナクション)を立ち上げたりしていました。

活動する中で、途上国では飢餓状態の人々がいる一方で、日本ではフードロスや肥満の問題が生まれていて、食料システムの不均衡さに触れました。なぜ食料システムがこれほど不均衡な状態になってしまうのか、深く学びたいと考えるようになりましたね。

TABLE FOR TWOで開催したTFT Kitchenの様子

身近な食料問題に向き合った大学での活動

ーー食をテーマとする様々な活動。立ち上げたsnactionはどのような団体ですか?

「解決するためにどうしたらいいんだろう…」とフードロスを深刻に捉えすぎず、創造性や「ワクワク」という原動力を大切に社会を一歩前進させることをコンセプトに立ち上げた団体です。

コロナ禍で開催を断念したのですが、フードロスについて楽しく知ってもらうことを目指して、廃棄予定のお菓子を使用してお菓子の家を作るイベントを企画していました。それから、フードロスについて楽しく学ぶことができる、小中学生向けのオンラインイベントも開催しました。

ーー様々な食べ物がロスされている中で、なぜお菓子に着目したのですか?

snactionとして創造性・ワクワクを大切にしたいと思っているのですが、お菓子の家って、みんなが子どもの頃に一度は憧れて、どこかワクワクするものだなと思います。そのお菓子の家が楽しいだけではなく、環境や食の問題の解決に繋がったらいいなという気持ちがあって、廃棄予定のお菓子を使ったお菓子の家のアイディアが生まれました。

廃棄予定のお菓子を使ったお菓子の家を試作した時の様子

ーー誰もが一度はお菓子の家に憧れますね!フードロスについて知ってもらう活動に注力したのはなぜですか?

大学での授業で、日本でのフードロスの実情を知ったのがきっかけです。国民一人あたり、ご飯1杯分を毎日廃棄しているほど日本のフードロスは深刻なのですが、その内訳をみると、事業活動の中で生じるフードロスと家庭内でのフードロスが同程度*なんです。

その状況を知って、私たち消費者自身が日々の消費行動を変えることでフードロスを減らせるんじゃないか、消費者一人ひとりができることを考え取り組むことも大切なんじゃないかと思い、フードロスについて学び、考えてもらう活動を始めました。

*農林水産省の調査によると、食品ロス量の47%が、家庭系食品ロス。
出典:「食品ロスとは

ーー家庭内のフードロスが、そんなに多いのですね…。snactionでは、他にはどのような活動をしていましたか?

他には、フードロスに取り組むNPOとの協働で、大量に廃棄されていたアルファ化米*を使って、レシピを考案したり、フードパントリー*で提供したり、ICUの学食で提供したりしました。

*アルファ化米とは:炊飯後に乾燥させて作った加工米のこと。
引用:「アルファ化米とはどのようなものですか

*フードパントリーとは:生活困窮者に対して、食品や日用品を無料で提供する場所。

snactionのメンバーと共に試作・提供したアルファ化米レシピ

ーー印象的に残っている活動でのエピソードはありますか?

snactionの活動を通じて、フードパントリーでのコロナ禍で生活に困窮する学生の方々との出会いが印象的でしたね。

フードパントリーに来られた方々の中には、私と同世代の学生さんも多くいらっしゃいました。上京して一人暮らしをして、生活費を得るためにアルバイトをされていたようなのですが、コロナによってアルバイトによる収入が激減し、食料を確保するためにフードパントリーに来られたと話してくれました。

国内でもフードロスと貧困状態が同時に起こっている現状を目の当たりにして、食料システムの不均衡さは日本国内にもあるのだと実感しました。

実際にアルファ化米レシピを学食で販売

食料問題に情熱を注げるわけ

ーーなぜ食料問題に興味を持ったのですか?

きっかけは高校生の時に参加した模擬国際会議です。生徒が各国の代表として国際会議に出席し議論をするもので、私が出席した時は「2050年までに飢餓をなくすために、各国は何をできるか?」をテーマに議論しました。

私はブラジル代表で、ブラジルの食料問題やリソースを調べて、「この資源を活用することで飢餓問題の解決に貢献できるんじゃないだろうか、この資源を得るためには他国とどのような交渉をできるだろうか」と考える中で、世界の飢餓問題に目を向ける機会となりました。自分の視野がグッと広くなりましたね。

ーー気づきが多そうな機会です!それをきっかけに飢餓問題に関心を持ったのですか?

そうですね。

飢餓問題の解決に携わりたいと思い、インドネシアの農村部をフィールドをする、大学のサービス・ラーニングのプログラムに参加しました。実際にインドネシアの農村部に暮らして、住民の方々が抱える問題や、その解決策を世界中から集まった参加者たちと一緒に考えました。

その活動を通じて、栄養失調の子どもがいたり、しかも栄養失調の問題が慢性的になっていたり、その村が抱える飢餓問題を間近に感じましたね。

ーー飢餓問題に関心を持つ中で、フードロスにも目を向けるようになったのですか?

はい。飢餓の人々の暮らしを良くしたいと思い参加していた、TABLE FOR TWOの活動がきっかけです。TABLE FOR TWOは、「世界の10人に1人が飢餓、4人に1人が肥満」という現状を解決するために、健康に配慮した定食や食品を購入すると、1食につき途上国の給食1食分に相当する20円分が寄付される仕組みを作り、広めています。

活動を通じて、フードロスや肥満など飢餓以外の食料問題にも触れるようになって、食料問題と一括りにしてしまうけれど実際は多様で複雑なのだと分かりました。そして、飢餓や肥満、フードロスが世界で同時に起こっている、不均衡な食料システムに疑問を覚えるようになったんです。

ーー食は身近で当たり前と感じてしまいますが、実は様々な問題を含んでいるのですね…。

多くの人にとって食は身近なものだからこそ、フードロスなどの身近な食料問題を入口として、食料問題に関心を持つ人が生まれたらいいなと考えています。

フードロスという問題を通じて、自分の消費行動を振り返ったり、食について深く考えたりすると、食べ物を大事にする意識が生まれるのではないかなと。食への意識が変わることで、遠くの国で起こる飢餓問題にも目を向けられるようになるかもしれません。

ーーそこまで食を探究できるのはなぜなのでしょうか?

今振り返ると、小さい頃から食への関心が高かったなと思います。料理もよくしていて、誰かに料理を振る舞うと喜んでくれる瞬間が好きです。

もともと好きだった食だったから生まれた疑問や想いを、行動に繋げていった結果のイマなのだと思います。点と点が繋がる感覚ですね。

それから、情熱を注ぎたいと思えるものがあって、実際にそれを追い求められる環境があることってとてもラッキーだなと思うんです。自分が夢中になれるものを通じて、社会に貢献できたり、人を幸せにしたりすることができたらさらに嬉しいです。

サステナブルに食料問題の解決へ

ーー将来のビジョンはどのようなものですか?

将来は、人はもちろん、地球環境も幸せになるような食を届ける活動に携わりたいなと考えています。

けれど、まだ模索中で。食を通して社会に貢献したいという想いは変わらず持ちながらも、食料問題を解決するための様々なアプローチに目を向けていきたいです。大学院で学ぶ間は、自分がもっと追求してみたいと思う分野を見つけたいと思っていて、アンテナを張りつつ、興味を持った機会に挑戦していきたいですね。

ーー最近、何か気になっている食料問題の解決策などはありますか?

今、一番興味があるものが「サステナブルフード」というものです。

大学院では、生きた魚を使わずに養殖する“cell-cultivated fish”や、カーボンニュートラルな卵に関する研究が進んでいます。大豆ミートなど、地球環境に配慮したお肉は少しずつ広まってきている中で、サステナブルな魚介や卵の開発も徐々に始まっているようなんです。

サステナブルフードに関する消費者の行動について、一緒に研究しようと誘ってくださる教授もいて、サステナブルフードにも少しずつ関わってみたいなと考えています!

ーーサステナブルな魚に卵。イノベーティブな取り組みですね…!

研究所で開発された魚と聞くと、消費者の方の中には「新鮮なのかな?本当の魚ではないのでは?」と懐疑的な意見を持つ方もいるんじゃないかなと思います。けれど、人口が増加し続ける中で、食料不足を解決する一つの手段になり得る面白い発想だと感じていて、サステナブルな新しいアプローチにワクワクしていますね。

ーーイギリスの大学院に通われているからこその出会い・学びですね!

通っているレディング大学は、農学系が有名で、食のスペシャリストがたくさんいる、ありがたい環境です。

農学部には日本人が私だけで初めは心細かったのですが、多彩なバックグラウンドのクラスメイトや農学部の教授など、留学したからこそ得られた出会いもたくさんあります。また、大学卒業後のビジネス経験も、現在の学びを深めてくれているなと実感していて、様々な出会いの巡り合わせに感謝しています。

楽しむ気持ちを大切に、自分のペースでキャリアを描く

ーー最後に読者へのメッセージをいただけますか?

読者の皆さんの中には「これからどんなキャリアを歩んだら良いのだろう」「今やっていることは将来に繋がるのだろうか」と悩む人もいらっしゃると思います。

私自身も今後のキャリアについて悩むことがあるのですが、そんな時は「最初から夢や目標は決めなくても大丈夫」「どんな時も楽しむことを忘れない」と思うようにしています。これらは、実は勤務していた会社の先輩方から教わった考え方なんです!

「最短経路で目的地に着くにはどうすれば良いだろう」と考えることも大事ですが、興味のあることに色々挑戦してみて、経験を積むことで見えてくるキャリアパスもあると思います。自分のやりたいことも、その過程で自ずとはっきりしてくると思うので、悩んだ際は参考にしてもらえると嬉しいなと思います。

編集後記

食料問題を軸に、学生団体から大学院での研究と様々な活動に参加する映莉子さん。

「どうして食料システムは不均衡なのだろう?」

毎日食べ物を得られることが当たり前で、私自身ハッとさせられた視点でした。映莉子さんが好きな食だからこそ、探究し気づくことが出来たのだなと思います。

社会課題解決に取り組む学生さんは、行動力がバツグンで、「すごいな…」と圧倒されそうになることも。けれど、じっくりお話しすると、自身の純粋な興味・関心を大切に活動されている方が多いのだなと感じます。

好きだからこそ、楽しいからこそ、活動に夢中になる中で生まれる疑問・考えが、社会を良くするタネになるのだなと気づかせてもらった、映莉子さんとのインタビューでした。


「社会課題解決」という言葉では表現しきれない学生の経験・感情を文章にしたい!

そのような想いで、社会課題解決に取り組む学生へのインタビューを始めました。

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